成長可能性資料の作成方法とポイント(後編)



前回に引き続き、今回も成長可能性資料の記載時のポイントについて書いていきたいと思います。今回は、3. 成長戦略と事業計画4. リスク情報5. Appendixについて詳述します。



3. 成長戦略と事業計画

会社の事業内容や、事業ドメインの拡張可能性、競合優位性について一定理解した投資家は、「じゃあどのように今後成長していくことを想定しているのか?」ということを知りたくなるはずです。そのため、自社がどのようにビジョンを実現させていこうとしているのかを書くことが非常に重要になります。


ここでのポイントは、会社のビジョンや強みと一貫した成長ストーリーを説明することが重要だということです。

色々な会社の成長可能性資料を見ていると、自社のビジョンや既存事業とのシナジー、自社が持つ強みとはほとんど関係ないような成長戦略を掲げているケースがしばしば見受けられます。このような場合、どうしても「本当にその成長戦略って実現するの?」とか、「それってなんでこの会社が取り組む必要があるの?」といった疑念が湧いてしまいます。


そのため、成長戦略を語るときは、大枠として下記のような流れで読み手が理解できるようなストーリー仕立てにできると、より投資家としてもスッと腑に落ちやすくなるかと思います。




具体例としてメルカリの成長可能性資料を見てみましょう。

例えば、下記の積上グラフのスライドだけが掲載されていて、「僕らはこれら複数の事業を成長させていくことで、全社としてのトップラインを伸ばしていきます!」とだけ書かれていたらどうでしょう?



これら複数の事業をなぜやるのか、メルカリの強みは活かされるのかといったことは分からないので、「本当にどこまで伸びるんだろう?」と思うはずです。


しかし、メルカリはこのスライドを持ってくる前に、下記のスライドを掲載しています。


まずこのスライドで、中長期的にどのような世界観を生み出したいと考えているのかを書いています。これらが「新たな価値を生み出す世界的なマーケットプレイスを創る」というミッションからくるものだということが明確に分かります。

その上で、次に創り出したい世界観に関連する領域を、地域と事業に分類して、それぞれのドメインで何のプロダクトやサービスを手掛けるのかが可視化されています。


このスライドではプロダクト毎に具体的にどのような姿となっていることを目指し、そのために何をやるのかがまとめられています。



その後に、これら成長戦略の実現を可能とするための事業間シナジーをまとめており、メルカリが持つ顧客基盤や組織としての開発力等の強みを活かして、各事業を伸ばしていくことが説明されています。



このように、メルカリの成長戦略のスライドはビジョンと自社の強みと一貫しており、かつ具体的にどのような世界観をどのように創り出していこうとしているのかが明確に書かれているため、非常に参考になる例だと思います。

とにかく、


もちろん、社内で中長期的な成長戦略が存在していなければ、これらをスライドに落とし込むことはできません。そのため、スライドに落とし込む過程で、「そもそも自社の成長戦略ってちゃんと実現可能性が裏付けられたストーリーになってるっけ?」ということを考えることが非常に重要になってくるかと思います。



4. リスク情報

リスク情報の記載に力を入れている会社はどれだけあるでしょうか?

事業内容や強みについては力を入れて記載しているものの、リスク情報は「有報に記載しているリスク情報から重要性の高い項目を載せたらいいだけでしょ」くらいに捉えられている会社も実は少なくないかもしれません。


しかし、このリスク情報は結構ちゃんと書いた方がいいと思われます。なぜなら、機関投資家は有報や成長可能性資料のリスク情報を見て、その会社の外部環境や事業内容に対するリスク感度の高さを評価しているからです。

ここをちゃんと記載することで、「あ、この会社はちゃんと自分たちを客観的に見て適切なリスク管理をやりながら事業をやっている会社だから、信頼できるな」と思ってもらえる可能性もあるので、意外と馬鹿にならない箇所だと思っています。


実際見てみると、ほとんどの会社が、めちゃくちゃデザイン性も高くて凝った資料を作っていても、リスク情報だけは長いテキストが記載されているだけという状態になっています。

個人的には、ここのリスク情報と対応策は、分かりやすく記載する工夫をもっと入れて行ってもいいと考えています。

例えば、弁護士ドットコムは、単にリスク項目を記載するだけでなく、発生可能性と発生時期、影響度を記載しながら分かりやすくまとめる工夫が行われています。


リスク情報はすごくあっさり書かれていることが多いため、ここを結構丁寧に説明してあげるだけでも「お、この会社ちゃんと外部環境とかに敏感なんだな」という印象を持ってもらいやすくなると思います。

例えば、成長可能性資料ではないですが、ツクルバは直近の決算説明資料で、外部環境に対する認識と、自社への影響に対する見立てを詳述するスライドを1つ入れています。



もちろん、これらもIR担当者がアイデアを出して開示資料に落とし込んでいるだけでは意味がないので、「そもそもうちの会社はリスク感度がそこまで高くないかも」と思う場合は、経営陣も巻き込んで、このあたりのリスク認識が甘くなっていないか、対応が曖昧になっていないか等を真剣に議論することが重要です。


5. Appendix

最後にAppendixです。

Appendixは特段ルール等は存在せず、完全フリースタイルで作成していくことから、会社毎に載せているスライドは結構異なりますし、そもそも載せていない会社も結構あります。


よくあるのは、連結PL、連結BS等の財務数値を載せているケースです。

もちろんこれらは決算短信や有報を見れば分かる情報ですが、決算短信や有報は比較対象年度が2ヶ年であることや、勘定科目が決められていること等の制限があるため、ここで改めて載せることは全然OKだと思います。

ビジョナルは比較的直近3か年と半期実績の比較ができるように財務数値を載せています。



あとは、本編では説明できていないけれど、強みの説得力が増す可能性がある情報を補足的に入れていくことも有用かと思います。


例えばユーザベースは、SPEEDAやNewsPicks等複数の事業を展開していますが、全社としての強みと、その強みを使ってどの領域に強化していくかをAppendixの箇所で整理しています。





本編に入っていていいような気もしなくはないですが、このように少し細かいけど強みを補足する情報を載せるのはアリだと思います。


その他にも、例えばセーフィーはクラウド録画プラットフォームを通じてどのようなサービスを提供しているのかを、業種別に具体例を挙げながら紹介したりしています。




あと、成長可能性資料ではないですが、Speeeも決算説明資料の末尾に、「自社が具体的に何をやっているのか?」をケーススタディ的に紹介するスライドを入れていて、何をやっている会社なのかをスムーズに理解しやすくする工夫が施されています。




デザイン事業を手掛けるグッドパッチは、ナショクラへのデザイン案件を手がけていることが強みのアピールに繋がるので、クライアント毎のデザイン実績を掲載しています。





こういった情報のほかにも、ESGに関する情報、直近の資金調達やM&Aに関する情報、役員のプロフィール等々の情報を載せているケースがありますが、どの情報を載せるかは会社毎に自由度高く決めていいかと思います。


ただ注意していただきたいのが、「本編に載せようと思っていたけど、これはAppendixでいっか」という取り扱いになったスライドの溜まり場みたいな状態になることは避けるべきだということです。本編と同じように順序性やメッセージ性等は吟味して、読み手がスッと理解できるような構成にすることが望まれます。




ということで、今回は2回に分けて成長可能性資料の作成方法とポイントについてまとめてみました。

グロース市場に上場する会社は、いかに投資家の頭に将来の成長ビジョンを描いてもらうかが極めて大切になってくるため、是非今回の記事を参考にしながら成長可能性資料をブラッシュアップしていただきたいと思います。



ということで、本日も最後までお読みいただきありがとうございました!

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