グロース企業がESGへ取組む際の具体的なステップ



投資実行時においてEnvironmental(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)を重視する「ESG投資」の重要性は年々高まっており、現在世界におけるESG投資の総額は4000兆円を超えると言われています。


世界のESG投資額の推移(出典:Global Sustainable Investment Review 2020)

そんななか、日本でもプライム市場に上場する大企業を中心にESGに関する情報開示を拡充する動きが強まっていますが、スタンダード市場やグロース市場に上場する会社ではESGに関する情報開示はまだほとんど行われていません。

これは恐らく、主に下記が要因だと考えられます。

  • ESGやサステナビリティの情報開示を行うためのリソースがないため

  • 事業を伸長させることの方が優先度が高いと考えられているため

  • そもそも投資家から開示があまり求められないため

しかし、グロース企業こそ、ESGやサステナビリティへの取組方針を真剣に考えるべきだと思います。なぜなら、ESGやサステナビリティの情報開示を行おうとする過程で自社の中長期的な価値創造プロセスを可視化することができ、ひいては中長期で企業価値を高めるための組織カルチャーや事業戦略を構築できるようになるからです。


「とはいえ、ESGへの取組みを開示しようと思ったら、統合報告書を作ったりサステナビリティ人材やコンサルを雇ったりしないといけないからすごく大変なんでしょ・・?」と思われている方もいるかもしれません。

そこで今回は、グロース企業が最小限の工数で効果的なESG・サステナビリティの開示を行うための具体的なステップについて、実際の事例も交えながら紹介していきたいと思います。


Step1 中長期的なありたい姿を言語化する

まず一番最初にやるべきことは、「自分たちは中長期的にどういう組織でありたいんだろう?」ということに関する解像度を高めきるということです。


昨今「パーパス経営」という言葉が流行っていますが、ミッションとかビジョンよりもパーパスを使うべきかどうかとかはあまり気にしなくてもいいので、とにかく、自社の存在意義は何なのか?どのように存在意義を全うしていきたいのか?ということを考え抜くことが大切です。


無論、このあたりのミッションとかビジョンとかの解像度が既にかなり高い会社もたくさんあると思います。そういう会社は特にこのStep1は不要かもしれませんが、「これまで事業を伸ばすことだけに集中してきたから、社会的に自社がどういう役割を担っていきたいかとかそういう抽象度の高いことはあまり考えられていなかった」という会社も多いはず。

そのため、まずは何よりも、この中長期的なありたい姿を徹底的に可視化し、言語化することに取り組むべきだと思います。

個人的に、このステップが抜けてしまうと、どれだけマテリアリティを丁寧に設定しても、どれだけESGの情報開示量を充実させても、表面的なもので終わってしまい、実際の価値創造プロセスからESGの取組みが分離されてしまう可能性が高まると思っています。


では、ありたい姿はどのように言語化していくべきなのでしょうか?この言語化プロセスは会社毎に違って当然だと思いますが、下記のようなプロセスを辿ることも1つのアプローチとしてあるかと思います。


まず、そもそも自社の関連する外部環境がどうなっているのかを分析します。分析するにあたっては、主に下記の視点から分析を行っていくのがいいと考えられます。

  • 業界構造がどうなっているのか

  • それが今後数十年でどう変わりゆくのか

  • その中でどのような社会課題が存在する、または表出すると見込まれるのか


その上で、自社に関連する「社会課題」や「あるべき姿とのギャップ」を洗い出し、自社が本当に取り組んでいきたいものを選んでいきます。

これを考えるにあたっては、自社の現時点での事業内容や組織カルチャー、経営者の個人的な原体験等との繋がりを意識することが有用なのではないかと思います。


その上で、パーパスなりミッションなりビジョンといった形で「ありたい姿」を言語化していきます。


上記は、必ずしも経営者一人で実施する必要はなく、例えばマネジメント層が数日間の合宿を実施して集中的に議論して決めたり、組織規模が大きくない場合は全社的に議論しながら決めて行ってもいいと考えられます。


Step2 マテリアリティを特定する

中長期的なありたい姿が可視化されたら、次は「マテリアリティ」を特定します。

マテリアリティは、「特に重点的に取り組むべき課題」と訳されることが多いですが、これの特定方法にも正解があるわけではありません。


よくあるアプローチとして、SDGsやSASB、GRIスタンダード等のフレームワークを参考にしながら、自社と関連がありそうな課題項目を抽出し、ステークホルダーとの対話を通じて特定していくというものがあります。

例えばラクスルは、下記のようなプロセスでマテリアリティを特定しています。


出典:ラクスル公式HP

同社は、この特定プロセスを通じて、下記のようなマテリアリティマップを作成・掲載しています。

出典:ラクスル公式HP


また、ユーグレナは、特定プロセス自体はラクスルと大きな違いはありませんが、①事業活動を通して解決したい課題と、②事業活動を支えるサステナブル経営を行うために解決すべき課題の2つに分類し、合計で8つのマテリアリティを特定しています。


出典:ユーグレナ公式HP

ラクスルとユーグレナはフレームワークを参考にしながらマテリアリティを特定している好例ですが、必ずしもフレームワークに則って数多くのマテリアリティを特定しなければならないわけではありません。

例えば、マネーフォワードは、マテリアリティを3つに絞って特定しており、かつ独自性の高いものとなっています。


出典:マネーフォワード_統合報告書

その他にも、エス・エム・エスは、「マテリアリティ」という言葉自体は使っていないものの、自社が取り組む社会課題を3つ掲げ、それぞれに対する解決の方向性も明示しています。


出典:エス・エム・エス_2022年3月期第3四半期決算説明資料

要は、マテリアリティの特定方法に決まった型はなく、とにかく「会社として何に重点的に取り組んでいくのか」ということがステークホルダーに伝わる状態にすることが重要だということです。

「マテリアリティの特定」というと、様々な基準を参照しながらマテリアリティマップを作成することを思い描く方も多いかもしれないですが、必ずしもそういうわけではないということを押さえておきましょう。


Step3 具体的な取組方針をESGの観点から整理する

マテリアリティが特定できたら、そのマテリアリティに取組むための具体的な方針を整理していきます。個人的には、この取組方針に関してはESGの観点から整理すると分かりやすくなると思っています。

例えば、先ほど例示したラクスルは、ホームページのヘッダーに環境、社会、ガバナンスのページリンクを表示しており、各ページで具体的な取組方針を具体的に示しています。


出典:ラクスル公式HP

また、マネーフォワードは、ESGに分類して取組方針を開示する方法ではなく、先ほど述べた3つの重点テーマそれぞれに対する取組方針を記載する方法を採っています。


出典:マネーフォワード公式HP

この3つの「詳しく見る」を押下すると、選択したマテリアリティに関する考え方や具体的な取組内容が記載されているページに遷移するようになっています。


出典:マネーフォワード公式HP

その上で、これら取組内容の中に、EやSに関連した取組方針を必要に応じて入れ込むという形になっています。

ちなみに、マネーフォワードは「環境」に関してそこまでリッチな記載は行っていません。ESG=「環境への取組み」というイメージを持たれている方が未だに結構多いと聞くことがありますが、別に全ての会社が無理やり環境のことをリッチに書いていく必要はないと思っています。あくまで、「何を重要課題と捉えていて、それに対してどのように対応するのか」をきちんと明示することが大切です。


あと、マネーフォワードの場合、3つのマテリアリティへの取組みを支える土台としてコーポレート・ガバナンスを記載しています。同社のこのコーポレート・ガバナンスの記載は形式的なものではなく、実態を表す充実した内容になっていてかなり参考になるので、(特に取締役会の実効性評価のところなど)是非一度ご覧いただくことをお勧めします。



Step4 自社のコーポレートサイトに落とし込む

ここまで来たら、あとは整理した内容を自社のコーポレートサイトに落とし込むだけです。

最も一般的なアプローチとしては、ヘッダーの部分に「サステナビリティ」という項目を作って、そこにESGやサステナビリティに関する項目を入れ込んでいくことが挙げられます。

下記の要素が盛り込まれていれば、あとはどのような構造・形式でつくるかは会社の好み等によってくると思います。

  • 代表者のメッセージ

  • 中長期的なありたい姿(MissionやVisionといった形式で開示)

  • マテリアリティの設定プロセス

  • マテリアリティ

  • 各マテリアリティに対する具体的な取組方針


グロース市場に上場している会社の場合、ホームページ上で「サステナビリティ」という項目があるだけでもかなりESGやサステナビリティに対して積極的な姿勢を持っていることをアピールすることができると思います。

もちろん、冒頭でも述べたとおり、ESGやサステナビリティは「いい会社アピール」のために取組むものではないことを忘れてはいけませんが、これをきっかけに機関投資家の関心を呼び、より建設的な対話を行っていくことが可能になれば、企業価値向上にもつながるかもしれないという意味では、取組む意味は十分にあると思われます。


「ESG=お金と人的リソースが有り余っている会社が実施するもの」ではなく、「ESG=中長期的な価値創造戦略を策定するためのプロセス」と捉え、自社なりの開示をスモールに行っていくグロース企業がもっと増えればいいなと思っています。



ということで、本日も最後までお読みいただきありがとうございました!!

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