top of page

IRに取組む目的と費用対効果について



IRは資本市場からちゃんと注目を集めて投資してもらうために一定重要だとは理解しているものの、別にIRに力を入れても売上が増えるわけでもないし、どうしてもコストとしてしか捉えられない、、そう思われている経営者の方も多いと思います。

そこで今回は、そもそもIRを行う目的は何か?本当に費用対効果はあるのか?といった点について簡単にまとめてみます。


IRの重要性が高まっている背景

株式市場に上場すると、不特定多数の人が自社の株式を売買することができるようになります。しかし、ひとたび上場すれば勝手に色んな人が自社の株を売買してくれるというわけではもちろんなく、約3,800社の上場会社の中から自社のことを認知し、関心を持ってもらうための活動をする必要があります。この活動こそが、IR(Investor Relations)です。

ここ数年、年を追うごとにIRの重要性は高まり続けており、IRに本格的に取り組む上場会社も増え続けています。なぜ今、IRの重要性が高まっているのでしょうか。

理由は大きく2つあると考えられます。まず1つ目は、「国がIR活動を積極化させる方針を掲げているから」です。


2015年6月、東京証券取引所は「コーポレートガバナンス・コード〜会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために〜(以下、CGコード)」を施行しました。このCGコードは、上場会社の内部統制やコンプライアンス体制等を強化することだけが目的なのではなく、サブタイトルにもあるように「日本の上場会社が中長期的な企業価値を向上させること」が目的にあります。つまり、日本の経済成長戦略の一環として掲げられているのです。

CGコードはこれまで2018年と2021年に改訂が行われていますが、5つの基本原則に「適切な情報開示と透明性の確保」と「株主との対話」が規定されています。詳細は割愛しますが、要はCGコードで「企業価値向上のためにも、IRちゃんとやってね」ということが述べられているわけです。これを受けて、多くの上場会社がこれまで以上にIRに真剣に取組むようになったと考えられています。


もう1つの理由が、「上場会社に対する期待が多様化しているから」だと考えられます。

元々は、ほとんどの投資家が上場会社に期待していることは「財務的な利益の成長」でした。そのため、多くの投資家は有価証券報告書や決算短信、主に実績の詳細が記載された決算説明資料を中心に会社に関する情報を集めて投資判断を行なっていました。

しかし昨今では、環境問題や人権問題に関する社会的関心の高まりや、人的資本、知的資本、自然資本等の無形価値の重要性が指摘されていることを受け、投資家や労働者、消費者等が様々な観点から企業に対して期待を寄せるようになっています。つまり、上場会社はもはや「財務的な利益」を追い求めるのみでは投資家をはじめとした多様なステークホルダーの期待に応えることができなくなっているのです。

そんななか、上場会社がこのような多様な期待に応えているかを投資家が判断するためには、有報や短信の開示のみでは十分ではなく、それ以外の情報の開示や、投資家との施局的なコミュニケーションが必要になってきます。そのようなこともあって、IRの重要性が益々高まっているのだと考えられます。


そもそもIRの目的とは何か?

IRを行うことの重要性を理解したとしても、IRに取組む目的を社内で可視化できていないと、なかなか本腰を入れてIRに取組むことはできません。

IRの目的は各社各様だとは思いますが、以下のようにIRの目的を整理することも可能だと考えています。



1. 市場からの適正な評価

まず1つ目は、なんといっても「市場から適正な評価を受けること」ですね。株価というものは、長期的には会社のビジネスモデルや事業領域、競合優位性等に基づく将来の予測財務数値をベースに動きます。つまり、「この会社は将来めちゃくちゃ伸びる」と思われていれば株価も上がりやすいし、「伸びる余地がない」と思われたら株価は上がりにくいわけです。また、先述のとおり、最近は財務数値だけではなく、人的資本や気候変動に対する取組み等も評価されているため、そのようなESGへの対応をどれだけ行なっているかという点も株価に影響を及ぼします。

しかし、IRを全くやっていなかったらどうなるか。投資家はその会社の適正なバリュエーションを評価することが難しくなります。また、そもそも市場から認知されず売買量が少なくなり、株価も割安なまま横ばいが続く可能性も高まります。


適正に評価されないが故に株価が割安なまま放置されると、資金調達を実施したとしても十分な金額が集められなかったり、大きく希薄化する可能性があります。また、自社が理想としない株主が自社の株式を買い集めて、TOBを仕掛けたり、株主提案を起こしてくる可能性があります。

そのため、透明性の高い情報開示を行い、投資家と積極的に対話を行うことで、自社を適正に評価してもらうことは間違いなくIRの目的の一つだと言えます。


2. 最適な株主構成の実現

2つ目は、「最適な株主構成を実現すること」です。

一言で株主と言っても、色んな属性の株主が存在します。個人投資家と機関投資家でまず大きく分けられるし、個人投資家の中にはトレーダーや中長期投資家がいますし、機関投資家の中にも国内系、海外系、ロングオンリー、ヘッジファンド、アクティビストファンド等様々な形で分類することができます。

この点、企業が長期的に成長していくためには、「どのような属性の株主に入ってもらうか」ということが重要になってきます。例えば、「お前ら翌四半期の利益目標絶対達成しろよ!」とばかり言う株主しかいない場合、会社の行動は、中長期的な成長戦略を掲げるよりも、翌期の利益目標を達成するための目先の営業活動の強化やコストカット等に走りやすくなるはずです。

とはいえ、じゃあ中長期的な投資ホライズンを掲げた投資家にだけ入ってもらえればよいかと言われるとそういうわけでもなく、流動性をつくったり、経営課題に対して厳しいコメントをくれる投資家も必要だと言えます。

そのため、「自社の場合はどのような投資家に株主になってもらうことが望ましいだろうか?」ということをしっかりと考えて、そのような株主構成を実現するための活動を行うことも、IRの目的の一つだと言えます。


3. 長期ビジョン・戦略の可視化

3つ目は、「IR活動を通じて、自社の長期ビジョンや成長戦略の解像度を高めること」です。

これ、個人的にすごく重要だと思っていて、IRはちゃんと取組めば一時的に株価を高めることは可能だと思うのです。しかし、長期的に株価を高めていこうと思ったら、ちゃんと会社が成長しなければなりません。つまり、「うちはこういう根拠でもっと成長するポテンシャルあります!」と言って一時的に株価が上がっても、実際に成長しなければ長期的には株価は戻ってしまうということです。

そのため、IRというものは、適切に経営戦略に落とし込んでいくことが非常に重要だと思います。例えば、「IR資料でもう少し競合優位性について開示しなければ」となったとき、自社の競合優位性に関する解像度が低いままだとうまくIR資料に落とし込めません。あるべき情報開示から逆算して、長期ビジョンや経営戦略をブラッシュアップしていくことが大切なのです。


また、投資家との対話を通じて、自社の相対的な見られ方や課題について意識的になり、戦略をよりブラッシュアップしていくことも非常に重要です。投資家からの質問にひたすら答えるだけでなく、「投資家から学べることは徹底的に学ぶ」姿勢を持つことも、IRの観点ですごく重要だと思います。


4.  自社のファンづくり

最後は、「自社のファンとなってくれる株主をつくること」です。

多くの株主は、自己のリターンを最大化するために、感情を排してロジカルに企業分析を実施し、投資判断を行なっていると考えられますが、「この会社のミッションがすごく素敵だから」とか、「社会にとってすごく意義のあることに取り組んでいるから応援したい」といった、エモい部分を重視して投資判断を行なっている投資家も存在します。

そういう投資家に株主になってもらうことってすごく大事だと思っていて、例えば成長のために資金調達を実施したり、非合理的な株主提案が出たりといった有事の際に、応援してくれる株主が存在するかしないかでは結構状況が変わってくると考えられます。

そのため、ロジカルな経営戦略や実績数値に関する説明だけを伝えるのではなく、「なぜ創業に至ったのか」とか、「どのような社会課題の解決に取組み、どんな世界観を実現したいと思っているのか」等を発信することも、IRの重要な目的のひとつなのではないかと考えていいます。


IRは費用対効果が本当にない?

IR活動を積極化させても、売上高の増加に直結するわけではないため、「IRは費用対効果を実感することが難しい」と思われている経営者やIR担当の方は多いと思います。

しかし、本当にそうでしょうか?ポジショントークのように聞こえるかもしれませんが、IRに取組むことの効果は様々な点で発現する可能性があると考えています。


適正な株価で資金調達できるようになる

株価が実態よりも割安な状態が続いてしまうと、成長投資を行うためにエクイティで資金調達を行おうにも、十分な金額が調達できなかったり、過剰に希薄化を起こしてしまいます。

一方で、IR活動を通じて株価の水準を自社が適正と考える水準と大きな乖離がない状態で資金調達をすることで、成長投資に必要な金額を調達することが可能となる可能性があります。資金調達は短期的なPLにはヒットしませんが、長期的には調達資金を利用した成長投資による事業規模の拡大等を通じてPLにも影響してくると考えられます。


中長期的な経営に専念できるようになる

株価が低い状態が続くと、資本市場から様々な形でプレッシャーがかけられるようになってしまうことがあります。「材料を出せ」や「株価対策をしろ」といったコメントが代表例ですが、このようなコメントが投資家から飛び続けてくると経営者やIR担当者としては精神的な負担がかかり、目先の株価対策を考えて経営に専念できなくなってしまう可能性があります。

そういう意味でも、日頃からIRを通じて理想的な株主構成を構築するための活動を実施することで、中長期的な経営に集中できるようになるという効果もあると考えられます。


経営の選択肢が増す

自社の株価が適正な水準で保てており、出来高も一定以上ある状態ができていると、経営の選択肢が増すと考えられます。例えば、株式交換によるM&Aを行なったり、機関投資家への第三者増資を行なったりすることが考えられます。


優秀な人材を惹きつけやすくなる

IRの主なターゲットはもちろん資本市場の投資家ではありますが、今後は従業員を含む他のステークホルダー向けにも情報を発信していくことの重要性がさらに増していくと思われます。

というのも、就職や転職を考えている人が、採用情報だけでなく、統合報告書をはじめとしたIR資料を見て、その会社の長期ビジョンや成長戦略を検討する可能性は十分にあるからです。そういう意味では、「こういう会社で働いてみたい!」という労働者からの共感を呼ぶためのIRもある意味重要かつ効果的なのかもしれません。




ということで、今回は、意外と分かりにくいIRの目的と、IRを実施することの費用対効果についてまとめてみました。もちろん、これらが絶対解というわけではもちろんないので、一度「自社におけるIRを行う目的と意味ってなんだろう?」ということを是非考えてみることをおすすめします。


最後までお読みいただきありがとうございます!



0件のコメント
bottom of page